月面ホテルに100万ドルの予約金?若き起業家の野心と、技術的現実の『深い溝』

予約金が25万ドル、日本円にして約4000万円

まず4000万円あったら何をしますか?
普通の人なら豪遊?
いや、きっと今あるローンなどの支払いを先に終わらせるだろう。
そして、もしかしたらもう少しいいところへ引っ越す?

・・・またローンを背負う(笑)

GRU Spaceという企業が月面に一連の高度な居住施設を建設する計画を発表しました。
その集大成となるのはサンフランにある「パレス・オフ・ファインアーツ」モドキらしい。
GRUはGalactic Resource Utilizationの略です。

2016年5月2日に訪れたときだ(もうあれから10年だ!)

宿泊に興味がある人々に対し、25万ドルから100万ドルのデポジット(預け金)を支払うよう呼びかけた。これを支払えば、早ければ今から6年後に行われる初期の月面ミッションの枠を確保できるという。

いや、もうアホでしょ!

って思ってはならない。
そう、あのイーロン・マスク氏のSpace-Xですら、最初は狂人かと思われたからである。

だが、今回の資金面はマスク氏とかなり違う。


フルタイム従業員がたったの一人

記者が創業者のスカイラー・チャン氏に話を聞いた際、GRU Spaceのフルタイム従業員は彼以外に一人しかいなかった。しかもチャン氏は、カリフォルニア大学バークレー校を卒業したばかりの若者なのだ。

大学時代、彼は興味深い経験を積んだ。テスラでのインターンとして車両ソフトウェアを執筆し、NASAの資金援助を受けて宇宙へ打ち上げられた3Dプリンターを製作した。また、チャン氏は月に関してある驚くべき事実に気づいた。人類を月へ送るためのクールな技術を作っている人々はたくさんいるが、その活動の大部分は「米政府」と「億万長者が資金を出す企業」という2つの柱に支えられている。

日本語訳をした
https://arstechnica.com/space/2026/01/you-can-now-reserve-a-hotel-room-on-the-moon-for-250000/

計画: 2029年に月面レンガ製造技術の試験を行い、2032年に最初の簡易宿泊施設、その後サンフランシスコの歴史的建造物を模した豪華ホテルを建設する。

背景: 創業者は、宇宙開発を政府や大富豪だけのものにせず、民間観光客をターゲットにした「第3の柱(宇宙観光)」が必要だと主張。

信頼性: 従業員はほぼ本人一人の小規模な組織だが、著名なアクセラレーター「Y Combinator」の支援を受けており、単なる夢物語ではない側面も持つ。


私がこの狂気とも思える計画で気付いた2つの点を説明しましょう。

1つはマスク氏との資金源の違いである。
もう一つは現地(月面)でのレンガ製造。

では説明したいと思う。

資金面

マスク氏は自分の私財を担保にして倒産寸前のSpace-XやTeslaと心中する覚悟で挑んだ。
この覚悟はとんでもない思いである。
失敗すれば自分も破産するからこそ凄まじい執念と説得力があった。

チャン氏はY CombinatorなどのVCを活用。
そもそもYCは失敗ありきで一攫千金を狙う組織であり、若さゆえの挑戦者で片付けられる内容である。

マスク氏なら「自業自得」としてみんなが笑うか伝説になる。
チャン氏なら「アホな夢を見る大富豪や投資家を裏切った」だけとして片付けられる。

資金の重みが全く異なる。

マスク氏は当初はNASAとの契約と自分の自己資金がメインだった。
現在、Space-X社は2019年よりStarlink人工衛星を計9400機を打ち上げている。
実際、2018年までにはたったの4000機しかLEO(Low Earth Orbit)衛星しかなかった。
現在、約14000機あり、混雑していて、先月中国が打ち上げた際にStarlinkのと衝突しここねた。

チャン氏は実績が出るまえに「予約金」でナンとかつなごうと考えている。
ご都合主義とも言えるだろう。
だが、忘れてはならないのはYCという「アクセラレーター」やあのDropbox社やAirBnBなどに資金提供もしていた会社であり、ただの遊び心でやっているのではないということだ。

マスク氏みたいに自腹を切ってやっている場合と他人からの軽い資金提供との重みは全く違うことを行っておこう。

レンガ製造

チャン氏は月面で資材調達をしてレンガを製造し「ホテル」を建設するとのことだ。

ここで重要なことは、チャン氏も月面での放射線、空気漏れ、隕石などの小惑星衝突のことを理解しているので、ホテルは風船みたいに膨らみ(Inflate)、更に何重構造にもなるレンガで保護することを言っている。

さて、このレンガだが、「ジオポリマー」という言葉で説明している。

「レンガ」というのは「焼きすぎ」と「普通」がある。
「焼きすぎ」が実は値段が高い。
これは「過焼成」レンガとも呼ばれており、「緻密」(ちみつ)で高強度になる。
レンガというのは温度、重力(圧力)、加熱時間によって品質が変わる。
製造するのにそう簡単ではない。

DASH村でTOKIOのメンバーが焼き物を作っているのを見たことがある人も多いだろう。
酸素の入れ具合、一定温度の熱、そして熱、熱、熱!
絶やすことがない不眠不休の作業である。
似たようなことである。

次に地球では重力がある。
月面での重力は地球の約1/6である。
密度を上げるには重力(圧力)が何よりも大切である。
月面にはそれが存在しない。
つまり、強度を得るには熱と重力は不可欠であるが月面にはそれが存在しない。

そして出来上がったあとに冷却プロセスも必要。
これもDASH村でゆっくり冷却しているのを見たことがあるだろう。
一気に温度を冷やしたりすると割れる。
冷却制御が重要である。
月面は真空であり、放射でしか熱が逃げないから地上とはことなる冷却処理を生み出す必要がある。

チャン氏はきっとこの内容も知っているはず。
だから「ジオポリマー」という言葉で逃げている。


この「ジオポリマー」というのは何か?

レンガを「焼かない」で作るというのはどういうことか?

月面にある「砂」(レゴリス–regolith)に含まれるシリカやアルミナをアルカリ溶液などの反応剤を使って化学的に固める「常温~低音固化」の技術とのことです。

ケイ素(Si)を構成元素とする物質の総称で、別名二酸化ケイ素(SiO₂)とも呼ばれ、地球の地殻に豊富に存在し、私たちの体(骨、皮膚、髪、爪など)や食品、水にも含まれる必須ミネラルの一種。

アルミナ(Al₂O₃)は酸化アルミニウムのことで、非常に硬く、耐熱性・電気絶縁性・耐摩耗性・耐食性に優れた白色のセラミックス材料で、研磨剤、耐火物、電子部品、触媒、宝石(ルビー・サファイア)など、その優れた特性から幅広い産業分野で利用されています。

Google AI

さて、ここで「シリカとアルミナを反応させる」ということで調べると「耐火物」が製造されるとのことです。

アルミナ・シリカ耐火物は、アルミナ(Al₂O₃)シリカ(SiO₂)(珪石を主成分とし、高い耐熱性・耐火性を持ち、工業炉のライニング、窯業、金属溶解炉、断熱材などに使われるセラミック材料で、アルミナ含有量で高アルミナ質(45%以上)と、シリカ主体のものに分かれ、熱衝撃に強く、用途に応じて低密度で軽量な製品や、耐食性・耐摩耗性を高めた製品(AZS質など)も開発されています。 

https://www.denka.co.jp/product/detail_00205

これを考えると、「レンガ」というよりも「コンクリート」に近いものだろうと。

さてここでもう一つ大きな問題がある。

シリカとアルミナを反応させる「アルカリ溶液」をどうやって月面まで運ぶのか。

この反応剤を地球から届けるにはかなりの出費が必要だ。
しかもISS経由であっても。
そもそも、ISSから月へ行くにも大変なんだよ。

そして真空中に水分をどう保持して反応させるか。

月面には水分もなければ、重力も1/6、大気も存在しないから地球上でのテストができない。
そのためにISSがあるのだが、真空状況を作るには船外活動が必要となり、かなりハードルが高い。

この「見えない技術」を作り上げるしかないという巨大な課題が残っている。
それを彼はじゅうぶん理解していると思う。


私の友人でダイモンの創業者である中島氏がいる。
ダイモンはYAOKIという月面探索機を開発している会社である。

https://dymon.co.jp/yaoki/

このように地道に研究を長年行っている。
このようにYCから突然資金を得て夢なのか夢精なのかわからないが月面にホテルを作る、しかも2032年(今から6年後)に膨張式構造物(inflatable structure)にと。

そもそもこれは「滞在費」であって、月面に行く費用は別途であることを伝えていない!

ホリエモンも言っているが宇宙ビジネスはこれから大きく広がる。
それ故に、彼は100億円以上の私財を北海道で注ぎ込んでロケット「ももちゃん」を打ち上げようとしている。

実は私はこの会見に出席していたのです。


さらなる課題は温度変化

月面の温度変化を考慮しているのか?

月面には大気がないので、温度差が激しいことはよく知られています。
月面だけでなく、大気がないところはすべてです。

直射日光が当たるところは(日中)約120℃くらい。
影になる場所や夜間(月面の反対側)はナンとマイナス170℃!

更に月面の南北にある永久影(クレーター内)は約マイナス240℃。
あとマイナス32℃で絶対零度に近づく恐ろしい極寒の世界。
つまり、普段でも300℃近い温度差があるのが月面です。

この極端な環境(温度差)が「ジオポリマー」の生成において致命的な問題を引き起こします。

ジオポリマー製造が困難な理由

  1. 水分維持が不可欠
    よ~く考えよう~♪ お水は大事だよ~♪(AF◯AC🪿)ってバカなことを言っている場合ではない。
    このアルミナとシリカを反応させるための「アルカリ溶液」はどこで調達するのか。
    そもそも120℃だとこのアルカリ溶液を持ち込んだとしても陽に当たれば一瞬にて蒸発するだろう。
    逆に影に置けば一瞬で凍りつく。
    真空でこれを混ぜて、安定化させ、更に密閉と圧縮と温度管理が必要となるのはちょっとした中学生でもわかります。
    現地で「砂」を調達しても、どのように運ぶの?
    Yaokiみたいな装置を大量投入して運ばせるか?(ヾノ・∀・`)ナイナイ
    そうすると手軽に作るという前提が崩れます。
    しかもたった6年後よ。
    コロナが2019年で発症して今、2026年ですでに6年どころか7年目に突入です。
  2. 熱膨張による破損・破壊
    先ほどにも書いたTOKIOのDASH村での焼き物づくりで失敗作がかなりできました。
    とてつもなく難しい作業です。
    温度管理はとても大切です。
    大気がない月面だと一瞬で沸騰と氷づく繰り返しになります。
    するとこの「ジオポリマーレンガ」はすぐに壊れるでしょう。
    つまり、骨粗鬆症というよりも焼きすぎた「骨」と同様に触れただけでバリバリに砕ける。
    しかも重力がないから密度もない。
    まさしく「骨粗鬆症」レンガとでも言えるでしょう。
    人間も無重力空間ではそうなります。
    つまり、これを維持するための「バインダー」(接着剤)が開発されていません。
  3. 重力の欠如でガス発生(気泡問題)
    パン作りを思い出してください。
    生地をテーブルに投げつけて気泡を抜いてコネたりします。
    更に焼く前に容器をテーブルに落として、空気を抜きます。
    これは、空気だけでなく化学反応でおきるガスを抜くためです。
    これで焼きムラがなくなります。
    重力が乏しい月面で、それをどうやるの?
    そうなると気泡が残り、強度が保てなくなります。

月面で「砂を固める」だけでは終わらない

ジオポリマーを生成するのに、単なる月面に豊富な「シリカ」と「アルミナ」をアルカリ溶剤で混ぜてつくればいいという話ではない。
その大量のアルカリ溶液をどう持っていくかから始まり、どこに保管するかもある。
月面でそれが作れるのか?
その製造装置はどうするのか?
その装置を動かす電力は、太陽光パネルを使うのか?
ソーラーウィンドを活用するのかなども課題として残る。

ジオポリマーは真空・極低温・極高温下での化学反応制御をどうするのか。
どちらにしても今ある地球上の技術では達成不可能だし、常識が通用しない。

Star Trekに出てくる物質製造装置(ケーキを作ってくれ!と頼むヤツ)は物質・反物質の制御で成り立っている。これくらい難しい内容である。
そもそも、そこに「ダークマター」まで存在せねばならないだろう。

科学(サイエンス)は魔法ではない。
魔法の杖も存在しない。
ホテルを作るにも、まず熱力学的な課題を食らいする必要があるが、具体策が存在しない。


YCがなぜこんな無謀なことにおカネを出すか考えてみた。

Y Comibinator の野望

私はこのプロジェクトをバカにしているのではない。
すごく夢があるものだと思っている。
見守る必要がある(10000%失敗するだろうけど)。

実は失敗が目的である。

え?と思われる人たちが大勢いるだろう。

エジソンも電球を作るのにフィラメントをいくつ研究したかご存じだろうか?
その資金源はどこから得たのか?

そう、あのエジソンですら電球のフィラメントを探すのに6000種類くらいテストしたそうです。
プラチナ、タングステン(これが今のフィラメント)、麻、紙、人の髪の毛やヒゲ、綿など。
そして最初にたどり着いたのが京都の竹でした。

更にエジソンの資金源は、あのJ.P.モルガン氏でもあり、そのパートナーのアンソンー・ドレクセルです。
そのエジソンが作った「メロンパーク研究所」は世界初の組織的な開発工場であり、今のシリコンバレーの研究所や、このYCのモデルでもあります。

個別の製品の成功ではなく、副産物(新しい技術と特許)で報酬を得ることも可能となります。
これは私がミノルタで35年前に教わったものです。
商品がヒットしなくても、そこで活用された新しい技術や特許が思わぬところでヒットすることがあと教わり、商品よりも長く収益に結ばれることになると。
とくに今の商品のライフサイクルが非常に短いから、特許で飯を食うほうが企業として収益につながる。

もしこのような技術が生まれたら、NASAやSpace-X社、ESAなども欲しがる技術となるでしょう。

最後にあなたならどう思うか?
人間は2032年に月面ホテルで宿泊できるか?


元記事:

https://arstechnica.com/space/2026/01/you-can-now-reserve-a-hotel-room-on-the-moon-for-250000/